ウルフガイと電子書籍先駆者の軌跡


まえがき


 エイトマンに幻魔大戦、ウルフガイに超犬リープ。漫画原作者として、SF作家として名を馳せていた「作家:平井和正」だったが、実は国内最初の
"電子書籍先駆者"であった事を知る人は数少ない。

 氏が電子出版構想を思い描いたのは、1995年~1998年のインターネット黎明期。まだ常時回線やwifiさえ整備されていない、ダイヤルアップの時代に紙の出版物に見切りをつけ、電子の世界へと飛びだっていった。
 そんな孤独な男の生き様を、初代kindle版リリース記念にご紹介したい。



  e文庫
 2018年現在、氏の美麗なPDF書籍は、上記サイトの他kindle版でも好評配信中なので、興味を持った方はお試し頂ければ幸いです。

  ヒライストライブラリー
 不確かな当時の記憶などは、ネット黎明期より活動されている「ヒライストライブラリー」さんの年表を参考にさせて頂いております。この場を借りて御礼を申し上げます。



・ご注意
この歴史は、雑誌やインタビュー記事を元に書かれた非公式な読み物です。
著者特有の「ジョーク」を含めて纏めているため、実際の史実とは大幅に異なります。


※本文を他サイトや商業誌で無断掲載するのはご遠慮ください。


第1章 きまぐれ☆電子書籍ストリート

「電子書籍先駆者」と「平井和正」の単語が結びついた方は、相当コアなパソコンユーザーだけだろう。
 それ程までに遠い昔、時代にして24年前の1994年。平井氏は一人の女性とブラウン管越しに出会ってしまう。

 中古少年コミック きまぐれオレンジロード(6) / まつもと泉 

 彼女の名前は
「鮎川まどか」ちょっぴりツンデレな、不良チック女子中学生である。
 ブラウン管越しに笑う、再放送アニメの「鮎川まどか」は、体調不良に苦しんでいた平井氏を包み込み、まるで女神さまのように微笑んだ。
女神の微笑で
"何故か体調が飛躍的に回復した"平井氏が追いかけ求めたのは、まどか嬢の消息探しである。
「HIRAISTメーリングリスト」等でファン同士の活動は進んでいたものの、当時のネット環境はそれ程整備されたものではなかった。すぐに秋葉原へと走り出し、作家生命や尊厳などを完全に放棄した「ひらりん」となった平井和正は、DOS/V機を片手にパソコン通信探索に興じた。

  中古テレホンカード鮎川まどか「きまぐれオレンジ☆ロード/まつもと泉」 週刊少年ジャンプ 抽プレ

 原作漫画すらまだ手に入れていない平井氏は、ファンアート的なオマージュ作品を情熱だけで書き上げてしまい、ようやくマンガを手に入れた頃には「アスキー編集部」へと売り込みをし、更に作者である「まつもと泉」氏本人までも電子の海に巻き込んだ。
 余談だが、平井氏の情熱に折れた「まつもと泉」氏は、その後メーカーと共同でデジタルコミックを発売し、
作画環境までデジタル移行した。

   中古Win95 CDソフトコミックオン Vol.1

 こうなってしまえば、オマージュ作品も売って売りまくるしかない。
 電子媒体を奨めたい「アスキー編集部」の思惑も加担し、1994年の11月「ボヘミアンガラス・ストリート」はアスキー通信やNIFTY-Serve等を始めとするパソコン通信10社で、世界初の
書き下ろし連載電子書籍として発売された。

 中古ライトノベル(新書)ボヘミアンガラス・ストリート やさしい嘘つき(2) / 平井和正

 これまでの作風とは異なる恋愛もの。どこかのアニメで聞き覚えのある設定に戸惑いを見せるファンによる批判もあったが、押し寄せる
まどか旋風に魅せられた平井氏は、持ち前の言霊を屈指し、葛城ユキもビックリな月産3冊のボヘミアンを書き終え、ついでにサンプル版が雑誌掲載された事で更なる反響を呼び、当時のネット環境にも関わらず電子書籍の売り上げは2000本を突破!

 青空文庫すら存在しない、初の電子書籍ストア「電子書店パピレス」ですらまだ運営に至ってない、1994年の電子の世界に、鮎川まどかが大好きだっただけで突っ走った"SF作家の平井和正"は華麗なる登場を飾る。

 彼女と出会ってから僅か半年で、電子書籍の世界は大きく変化を遂げた。



  NEXT>>
第2章 NECデジタルブックからAdobeへの移行