ウルフガイと電子書籍先駆者の軌跡



 
  地球樹の女神
  定価 734円

 
・出版社を渡り歩いた長期シリーズ。これまでの作風とは一味違う、恋愛要素を含めた意欲作。
 角川版は「真幻魔大戦」と並んで、山田章博氏が挿絵を担当。


第2章 NECデジタルブックからAdobeへの移行

 破れかけのタロットでも予測できなかったボヘミアン旋風に、平井氏どころか電子ブックリーダーの元祖を発売していたNECまでもが驚きを隠せなかった。

   

 当時の電子書籍と言えばCD-ROMか、良くて付録のフロッピーディスク。オンライン通販もろくに整備されていないネット事情を駆け抜けていったのが、大企業でもなければライバル会社でもない、一人の作家が
「鮎川まどか」 に会いたい一心でやってしまったのだから、椅子からも転げ落ちたくなる。

 中古Windows3.1 CDソフト伊達公子 フォトマガジン -デジタルブック入門-

 Windows3.1から95へと移行を続けていったパソコン環境の変革も有り、電子書籍や電子媒体そのものに対する価値が見いだされるように変化を迎えた。
 前述の「電子書店パピルス」や「月刊アスキー」等も電子出版への道へと乗り出し、先駆者としての
「電子作家平井和正」が国内だけではなく、海外からも称賛を浴びる。

  中古ゲーム雑誌TECH Win 1995/2(CD-ROM2枚)テックウィン

 あらゆる媒体が「平井和正の電子書籍」を追うようになり、アスキーや関連雑誌の広告を飾っていく。
 DOS/V機講座などの掲載にネット環境を持っていないファンはハテナマークを浮かべつつ、電子の世界のパイオニアとして作家平井和正は君臨した。

  
 テックジャイアンにまで掲載

 元々、作家でありながら出版業界とは仲が良いとは言えなかった氏に取ってみれば、仲介や一般書店を挟まずに直に読者へと文章を提供し、更にオンラインで感想を貰える電子書籍は非常に
居心地の良い場所だった。
 誰からも書いた文章を咎められず、編集による変更も入らないで作品の世界にのめり込める。

 ただ、氏が思い描いていた電子書籍と現実はあまりにも違いがあった。
 書籍版と変わらない、同じ雰囲気で小説を読むには、日本のネット環境はあまりにも脆弱な速度であり、メディアの容量もハードディスクですら4GB程度。
 販売している電子書籍もテキストデータがメインで、カラフルなイラストには程遠い、非常に質素で無機質な物でしかない。

  中古ライトノベル(その他)下)ハルマゲドンの少女 / 平井和正

 苦悩する平井氏の前に訪れたのは、電子出版成功の噂を聞き付けた
「Adobe Systems」という企業。
 Photoshop等のイラストソフトで名を馳せた会社が次に推し進めていたのは「紙媒体の電子化」であり、国内での販売を模索していた彼らにとって、平井氏は電子文書を普及させるためのキーマンだ。

 平井家の次女とまで呼ばれた、イラストレーター「泉谷あゆみ」氏を新作の相棒に置いて、電子の世界の作家としての最終段階に進むべく平井氏は動き出した。



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第3章 ウルフガイ新作「月光魔術團作戦」の始動

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